賃貸住宅の契約の際や、火災保険を検討する際に「借家人賠償」「借家人賠償責任保険」という言葉を見ることがあるでしょう。賃貸住宅に入居する際に加入する賃貸火災保険には、原則、借家人賠償責任保険が特約としてセットされていますが、この保険はどのような役割があるのでしょうか?本記事では、借家人賠償責任保険の役割や補償範囲、自分で選ぶときの注意点について解説しています。
借家人賠償責任保険とは大家さんに対する賠償責任を補償する保険のことで、一般的に賃貸火災保険の特約としてセットします。
自分が所有している住居が火事や自然災害などで損害を受けた場合、建物を保険の対象とする火災保険に加入していれば支払われます。
しかし賃貸のアパートやマンションは自分の持ち物ではなく、大家さんの持ち物です。そのため、建物の火災保険に加入するのは、大家さんや管理組合であり、入居者が加入する必要はありません。
ただし、入居者が借りている部屋に何らかの損害を与えた場合、大家さんに弁償する必要がある場合があります。
入居者が借りている部屋に損害を与えてしまい、大家さんに対して法律上の損害賠償責任を負ったときの費用を補償するのが借家人賠償責任保険の役割です。
少しでも保険料を安くするために、賃貸火災保険にセットされている借家人賠償責任保険を外したいと考える人もいるでしょう。
賃貸住宅に入居する際、賃貸借契約の条件として借家人賠償責任保険への加入を義務付けている不動産会社もあります。
また入居者は、賃貸のアパートやマンションを借りると、善管注意義務と原状回復義務を負います。
善管注意義務とは、社会一般的に求められる程度の注意を払って、借りている部屋の管理をしなければならない義務のことです。
一方、原状回復義務とは、通常の生活をすれば生じる傷や汚れといった「通常損耗」や、時間の経過に伴う劣化である「経年劣化」を除き、借りた部屋を原状(元の状態)に戻して返還しなければならない義務を指します。
入居中の不注意によって部屋に損害を与え、修理が必要になったとき、借家人賠償責任保険から支払われる場合があります。
仮に入居者が借家人賠償責任保険に加入していなければ、大家さんや不動産会社からの修理費の請求に対して、入居者が修理費を負担することができない場合にトラブルになるため、多くの場合、加入が義務付けられているのです。
賃貸火災保険は「家財保険」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3つの補償から構成されています。
賃貸住宅の建物は自身の所有物ではありませんが、家具や家電といった家財は自身の所有物です。そのため火事や自然災害により、自身の家財が損害を受けた場合に補償されるためには、家財保険に加入する必要があります。
また給排水設備からの水漏れで下の階の入居者の家財に損害を与えてしまったなど、他人に対して法律上の損害賠償責任を負う可能性もあります。このような場合は、借家人賠償責任保険ではなく、個人賠償責任保険で補償します。
【賃貸火災保険を構成する3つの補償内容】
主な補償内容 |
|
---|---|
家財保険 |
自身の家財の補償 |
借家人賠償責任保険 |
大家さんに対して法律上の損害賠償責任を負ったときの補償 |
個人賠償責任保険 |
他人に対して法律上の損害賠償責任を負ったときの補償 |
賃貸火災保険の保険料は、建物の構造や地域によって保険料が変わる場合もありますが、ここでは、建物の構造や地域に左右されず保険料が一律のネットで入る少額短期保険の保険料を紹介します。
コンロやストーブの消し忘れや、コンセントと電源プラグの間にたまったほこりが原因で発火し、火災が発生した。ガスコンロのボンベが破裂・爆発して、借りている部屋の壁や床に損害を与えた。
このように火災や破裂・爆発で借りている部屋に損害を与え、大家さんに対して法律上の損害賠償責任を負ったときに借家人賠償責任保険で補償されます。
入居者の過失による水漏れにより壁や床が、破損・汚損することがあります。このように水漏れが原因で、借りている部屋を修繕したときの費用も、借家人賠償責任保険の補償の対象となります。
借家人賠償責任保険は、故意の事故や劣化による損害、大家以外に対して生じる損害賠償責任などは補償の対象外となります。各事例について詳しく紹介します。
借家人賠償責任保険で補償されるのは、入居者の「過失」により大家さんに対して損害賠償責任を負い、損害賠償金を負担した場合です。故意で借りている部屋に損害を与えたときは、借家人賠償責任保険では補償されません。
過失とは、結果を予見できたにもかかわらず、発生を防止する義務を怠り、損害を発生させてしまうこと。一方、故意とは、結果が発生することを知りながら、それを容認したうえで行為に及ぶことです。簡単にいえば、過失は「うっかり」、故意は「わざと・意図的に」という違いがあります。
日常使用に伴う擦り減りや、劣化の他、変色や変質、さび、かび、腐食といった損害は借家人賠償責任保険では補償されません。また平常の使用によって生じるすり傷やゆがみ、たわみ、へこみも補償の対象外です。
ペットを飼える賃貸物件に住んでいると、ペットが部屋を汚したり、引っ搔いたりする可能性があります。しかし、すり傷などの外観上の破損・汚損で機能に支障がない、あるいは偶然性が欠ける損害などは補償の対象外です。
借家人賠償責任保険は、あくまでも大家さんに対して法律上の損害賠償責任を負ったときのための保険です。
水漏れで下の階の入居者の家具や家電製品といった家財を破損させてしまった場合など、大家さん以外の第三者に対して損害賠償責任を負った場合、借家人賠償責任保険では補償されません。
賃貸火災保険は不動産会社がおすすめしたもの以外から選ぶことも可能です。しかし借家人賠償責任保険の保険金額が不足していると、不動産会社から指摘を受ける場合があるなど注意点もあります。 借家人賠償責任保険に加入する際の注意点を紹介します。
不動産会社は借家人賠償責任保険を重視しますが、借家人賠償責任保険だけでは自身の家財が火災や自然災害で損害を受けたときや、第三者に対する法律上の損害賠償責任は補償されません。
賃貸住宅に住むときは、借家人賠償責任保険に加え、家財保険、個人賠償責任保険もセットで加入するのが基本です。 ただし、すでに自動車保険や傷害保険などの特約として支払限度額が無制限の個人賠償責任保険が付いているときは、補償の重複が生じるため、個人賠償責任保険をセットする必要はありません。
|
保険会社 |
家財保険 |
個人賠償責任保険 |
借家人賠償責任保険 |
年間保険料 |
---|---|---|---|---|---|
単身世帯 |
チューリッヒ少額短期保険※1 |
100万円 |
1,000万円 |
1,000万円 |
3,610円 |
二人世帯 |
Mysurance※2 |
300万円 |
1億円 |
1,000万円 |
7,320円 |
四人世帯 |
東京海上ミレア少額短期保険※3 |
600万円 |
2,000万円 |
2,000万円 |
12,500円 |
※1 借家修理費用:100万円、生活再建費用:10万円、被害事故法律相談費用:30万円を含む
※2 借家修理費用:50万円を含む
※3 借家修理費用:100万円、臨時宿泊費用:20万円、被災転居費用:20万円、死亡時修理費用:50万円を含む
借家人賠償責任保険は、借りている部屋に損害を与えてしまい、大家さんに対して損害賠償責任を負ったときの費用を補償する保険です。借家人賠償責任保険は原則、賃貸火災保険にセットされており、加入していないと、大家さんに対する損害賠償責任を全額自己負担しなければならなくなります。
借家人賠償責任保険は「家財保険」「個人賠償責任保険」と共に賃貸火災保険としてセットで加入しますが、必ずしも不動産会社がおすすめしたものに加入する必要はありません。
借家人賠償責任保険の仕組みを理解して、自身に合った保険を選びましょう。
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