火災保険は火災だけでなく、さまざまなリスクから自身が所有する建物や家財を守ってくれる保険です。火災保険の補償範囲を狭くすると保険料を抑えられますが、必要な補償が不足すると、万が一のときに十分な補償が受けられないこともあるため、慎重な検討が必要です。この記事では、火災保険の補償範囲や、補償内容を選ぶときのポイントについて解説しています。
火災保険は、火災や自然災害などで自己所有の建物や家財が被害に遭った際の損害を補償する保険です。以下、火災保険の概要について紹介します。
火災保険とは損害保険の一種で、自己所有の建物や家財が、火災や自然災害などで被害に遭った際の損害を補償します。
補償される保険金には主に以下の2種類があります。
火災保険の対象は、建物と家財に分かれており、「建物のみ」「家財のみ」「建物と家財の両方」を加入時に選ぶことができます。
仮に建物のみ保険の対象とする火災保険に加入していた場合、火災で建物と家財の両方が損害を受けても、建物の損害しか補償されないため注意が必要です。
建物だけでなく家財の補償も受けるためには、建物と家財の両方を保険の対象とした火災保険に加入する必要があります。
なお、賃貸住宅の場合、建物は自身の持ち物ではありません。そのため建物の火災保険は賃貸物件のオーナーが加入するのが一般的です。
賃貸住宅の入居者は、自身の持ち物である家財の火災保険と、建物に損害を与えたときなどオーナーに対する損害賠償責任を補償する借家人賠償責任保険に加入します。
【火災保険の補償対象】
建物 | 家財 | 補償対象 |
補償あり | 補償なし | 建物のみ補償 |
補償なし | 補償あり | 家財のみ補償 |
補償あり | 補償あり | 建物と家財を補償 |
ただし、地震を原因とする損害は、火災保険の対象外です。たとえば地震で建物が傾いたような場合、地震保険に加入していなければ補償されません。
地震保険も、「建物のみ」「家財のみ」「建物と家財の両方」から保険の対象を選んで加入します。
賃貸住宅の入居者の場合は、地震保険も家財のみ加入すればよく、建物の地震保険に加入する必要はありません。
総務省消防庁が発表している「令和4年消防統計(火災統計)」によると、年間出火件数3万6,314件のうち建物火災は2万167件で約5割を占め、出火原因別の内訳は以下の通りとなっています。
【出火原因別の内訳(建物火災:上位5つのみ)】
原因別 | 件数 | 構成比 |
コンロ | 2,713件 | 13.5% |
たばこ | 1,844件 | 9.1% |
電気機器 | 1,499件 | 7.4% |
配線器具 | 1,290件 | 6.4% |
ストーブ | 1,088件 | 5.4% |
火事は、自分だけが気を付けていれば良いというものではありません。日本には失火責任法という法律があり、失火によるもらい火は、故意または重大な過失がなければ火元に損害賠償請求ができないことになっています。つまり、もらい火のリスクも、自身で備えておかなければならないのです。
また、近年では台風や洪水が原因で、損害を被るケースも増えています。火災や自然災害などで損害を受けたときの経済的な負担を軽減するためにも、火災保険の加入は必須と言えるでしょう。
火災保険は火災だけでなく、さまざまな自然災害による損害を補償する保険です。補償範囲は保険会社によって異なり、日常生活の思いもよらないリスクまで補償される場合もあります。以下、火災保険の主な補償内容や支払事例を紹介します。
なお、保険会社によっては不要な補償を取り外すことも可能です。たとえば水災リスクが低いエリアや物件に住んでいる場合、水災補償なしとすることで保険料を抑えて加入することもできます。
また取り外せる補償内容も、保険会社によって異なります。
家電製品のコンセントから発火した、揚げ物をしていて、揚げ物に火がついたなどの原因で火災が発生し、建物や家財が損害を受けた場合に補償対象となります。
また延焼や類焼で自身の建物や家財が損害を受けた場合、火元に損害賠償を請求できないことから、自身の火災保険でカバーする必要があります。
放火による火災も対象となります。ただし契約者や被保険者(※)が自己所有の物件を放火したときは、補償の対象になりません。
※契約者とは、保険会社に契約の申込みをして保険料を支払う人で、契約の当事者をいいます。被保険者とは、保険の補償を受ける人をいいます。
落雷により屋根に穴が開いてしまった、あるいは火災が発生したなどにより建物や家財が損害を受けた場合に補償対象となります。
ガス漏れで建物が破裂・爆発して建物が損傷をした。部屋でガスボンベが破裂し、壁や床、天井などに損害を与えた場合、またはそれらにより家財が損傷した場合に補償します。
風で屋根が吹き飛ばされた、竜巻で飛来物が飛んできて壁に穴が開いてしまった、雹でガラスが割れてしまった、豪雪や雪崩で建物が倒壊したとき、またはそれらにより家財が損傷した場合に補償します。
なお、風災とは台風・旋風・竜巻・暴風などを指し、洪水や高潮は含みません。また雪災とは、雪の重さや落下による事故あるいは雪崩による事故を指し、融雪洪水や除雪作業中の事故による損害は、雪災には含まれません。
台風、暴風雨によって生じた洪水や高潮により、床上浸水して壁や床を張り替えた場合や、豪雨による土砂崩れで建物が倒壊したとき、またはそれらにより家財が損傷した場合に補償します。
水災は「再調達価額の30%以上の損害が発生した場合」「床上浸水または地盤面から45センチを超えて浸水した場合」のように一定以上の損害に達したときに限り補償対象となるのが一般的です。加入時に水災の補償内容については十分確認しておきましょう。
再調達価額とは、損害を受けた家財や建物と同等の物を新しく買いなおす場合に必要となる金額のことです。また地盤面とは家の基礎の最も低い面のことを指します。
なお、津波による浸水は、水災では補償されません。
給排水設備からの水漏れで壁や床、天井に破損・汚損が生じたことにより、建物や家財が損害を受けた場合に補償します。
ただし、漏水などによる水濡れが生じても、給排水管設備自体に生じた損害については対象外です。また経年劣化やもともとあった隙間から生じた雨漏りを原因とする損害は、補償対象外となります。経年劣化とは時間の経過にともなう品質低下、いわゆる老朽化を指します。
空き巣が侵入し、窓やドアを壊されてしまったとき、家財が盗まれてしまったときなどの損害を補償します。
家のものが盗まれたときは、家財の火災保険に加入していれば補償されます。
集団行動や労働争議などにより、建物の窓や壁に損害を受ける場合があります。このようなケースで建物や家財が損害を受けた場合の損害を補償します。
自動車やトラックが衝突して壁に穴を損壊させた、空からの落下物で屋根の一部が破損した、野球のボールが飛んできて窓ガラスが割られたときなどの損害を補償します。
保険会社によっては、上記以外の不測かつ突発的な事故を補償対象としている場合があります。
火災保険は補償内容をある程度選べますが、何を基準に選べば良いのでしょうか?補償内容を選ぶ際のポイントを紹介します。
火災や自然災害などが発生すると、建物や家財が大きな損害を受ける場合がありますが、頻度は多くはありません。ただし火災保険は火災や自然災害だけでなく、日常生活で起きる損害も補償に含められます。
たとえば、トイレの排水管が詰まって破裂して水漏れが発生し、壁や床が破損あるいは汚損した場合は、建物を保険の対象とした火災保険のうち、水濡れ事故を補償範囲に含んでいれば、火災保険で補償されます。
また、空き巣により建物が壊されたり、物が盗まれたりしたときは、盗難を補償範囲に含み、家財と建物両方の火災保険に加入すればどちらも補償対象です。
子どもが物を投げつけて、液晶テレビを壊した場合などは、家財を保険の対象とした火災保険のうち、不測かつ突発的な事故を補償範囲に含んでいれば、補償されます。
火災保険は万が一に備えるものというイメージがありますが、日常生活で起きる損害も意識して選ぶことが大切です。
火災保険は損害保険金だけでなく、費用補償(費用保険金)の有無にも注目しましょう。費用保険金の内容は保険会社によって異なりますが、代表的な費用保険金として次のようなものがあります。
【主な費用保険金】
臨時費用保険金 | 損害保険金が支払われる場合に、損害保険金に上乗せされる保険金です。用途は問わないため、自宅の損害を修理している間のホテル費用など、損害にともなって生じる諸費用などや臨時の支出などにも充てられます。 |
残存物取片付け費用保険金 | 火災や自然災害で保険の対象が破損したときに生じた、残存物の撤去費用や運搬費用、清掃費用などが補償されます。 |
失火見舞費用保険金 |
自宅の火災が原因で、隣家など第三者の所有物に損害を与えたときに、見舞金等の費用に対して支払われる保険金です。 |
類焼損害補償特約 | 火災・破裂・爆発で近隣の住宅や家財に延焼したときに、法律上の損害賠償責任がなくても、近隣の損害を補償する特約です。 |
地震火災費用保険金 | 地震・噴火やこれらによる津波で建物や家財に損害が発生し、一定の条件に該当した場合に支払われます。 |
水災や地震保険といった補償を外すことで、保険料を安くできます。しかし万が一のときに補償されないため、補償を外して良いか不安になる方もいるでしょう。
補償の必要性を考えるうえで参考になるのが、自治体で用意しているハザードマップです。ハザードマップとは、地震、津波、噴火、土砂災害、洪水などの自然災害が起きたときに予想させる被害や被害区域を地図化したものです。
ハザードマップは国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」や自治体のホームページで確認できる他、市区町村役場の窓口で配布もしています。
火災保険は火災以外にも、自然災害や日常生活における損害も補償される場合があります。選べる補償範囲は保険会社によって異なりますが、補償範囲を狭くすることで保険料を抑えることも可能です。ただし万が一のときに補償を受けられない可能性もあるため、加入する前に保険金額だけでなく補償範囲も十分検討する必要があります。
火災保険は火災や天災といった万が一の損害だけでなく、日常生活で起きる損害の備えも必須と考えましょう。また実際に事故が起きた場合、費用補償も大きな支えとなります。保険会社で用意している費用保険金も、比較検討することをおすすめします。
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